「なりたい自分」を見つける
神田和明(カンダカズアキ)
理事 アドバイザー サントリー酒類㈱執行役員北海道支社長(札幌)
私は、「志(こころざし)定まれば、気盛んなり」という吉田松陰の言葉が好きだ。
常に「こうなりたい」、「こうありたい」と明確で強い志(こころざし=目標・ゴール)を持つことが、充実した人生を過ごす上で大切だ。ぶらりと散歩をしていて、富士山の頂上に立った者は誰一人としていない。自分の人生を振り返ると、生きるうえでの志を意識しはじめたのは50代に入ってからだ。
それまでは、将来の明確な目標がなく、「自分に投資し成長する」という考えもなかった。つまり、こうなりたいという「願望」に基づいてではなく、今こうしたいという目の前の「欲望」が自分の考え・行動を大きく支配していた。そのため、食べたいものを好きなだけ食べ、他人に対して自分の好きなように振る舞い、心の栄養となる読書などもさほど興味がなかった。それでも、その時々はそれなりに楽しく、自分なりに満足した毎日を過ごしていたのではないかと考えている。それが50代に入ってから考え・行動が大きく考えが変わった。
それはある時、心の奥底にあるもう一人の自分が「お前はこの程度の人生に満足なんかしていない。あと残り少ない人生、このままで終わって良いのか?」と強く語りかけてきた。そのあと何度も、もう一人の自分との問答が続いた末、やはり自分は今の自分には満足していないということに気づかされた。そして「自分がなりたい自分になる」ことを決意した。
その瞬間から自分の行動が変わり始めた。「人間」として、「男」として、「ビジネスマン」としてのあるべき姿を強く意識しはじめた。まず身体の改造に取り掛かった。食事のカロリーをきっちりコントロールし、適度な運動習慣を継続することによって、約1年で体重を30キロ減らすことに成功した(108kg.→78kg.)。そしてこの成功がトリガーとなり、さらに自分の考え・行動の変化に大きく拍車がかかっていった。 続いて、長年の不摂生でガタガタになっていた歯をインプラント治療し、かなり薄くなりはじめていた頭髪を「発毛専門リーブ21」に1年間通い、そこそこ、人並みの頭髪に戻した。
こうなってくると、おもしろいもので「ひそかに変わっていく自分を観る楽しみ」を覚えた自分は、同時に仕事面でも何か目標を定め、 それに向けて投資したくなってきた。それで、自己啓発の一環として、ビジネスコーチスクールに通い、コーチングの理論を徹底的に頭に叩き込んだ。それを実際の自分の仕事の場で泥臭く実践することにより、会社で大きな成果を継続して出すことができた。そして現在は、自分のキャリアをベースとした著書の出版に向けて毎日文章を書くトレーニングを続けている。
なぜ「このように自分が大きく変われたのか」のかはうまく説明できないが、一つだけ言えることは、50代に入って、もう一人の自分と出会い、彼との激しい葛藤によって、心の奥底で「なりたい本当の自分」を定めたことだ。そのような強い信念の下で、「自分はこうありたい、こうなりたいんだ」と熱望することで、自然と意識が方向づけられ、知らず知らずのうちに行動が大きく変わっていったのではないかと思っている。
もし、今の自分になんとなく満足していない人がいるとすれば、心の奥底に潜んでいるもう一人の自分を探し出し、本音の議論を行うことを薦める。そのことによって、「なりたい自分」を見つけてほしい。「なりたい自分」を見つけるのは、人生のうちで早ければ早いほど良いのではないかと思う。
途中で「なりたい自分の姿」が変わってもかまわない。大事なのは常に「何を目指して自分を成長させるか」を意識することだからだ。たとえその時に、「なりたい自分」をうまく見つけることができなかったとしても、そのことを少しでも意識するだけで、なりたい自分を見つけるチャンスが広がる。常に目指すゴールを強く意識し、その実現に強く意識を注ぐ者は、成功への可能性を極限までに高めていく。
だから私は、「志(こころざし)定まれば、気盛んなり」という吉田松陰の言葉が好きだ。
次回は、吉田彰さん(理事、アドバイザー)です。