波多野 薫(ハタノ カオル)

ビジョン創造4期、ダイアログ8期

私にとっての久野塾での最大の学びは、なんといってもクリティカルシンキングです。クリティカルシンキングを活用して思考することで、人がどうしても持っている思考の枠組みを外すことができる。その考え方を知って、10年以上に渡って探していたパズルのピースの一つが見つかったような気がしています。

最近、AIやロボットがルーチンワークを代行するようになるので、人間はより創造的な仕事に時間を割こうという話をよく耳にします。でも、言うは易く行うは難し。簡単に今までにない創造的な仕事をやってのける人もいますが、私を含め多くの方にとってはそれほど簡単ではないのではないでしょうか。AIやロボットが確実に世の中に浸透していく中、創造的な仕事を成し遂げる方法は今後大きなテーマになってくると考えられます。

私は、もともと研究開発が仕事であったこともあり、どうやったら創造的な仕事で世の中の進歩に貢献できるのか?ということを、長いこと思考錯誤してきました。そして、思考の枠組みを意識的に外すことが、創造的な仕事をするためにすごく役に立つのでは?というのが、クリティカルシンキングを知り、活用してみて感じたことです。

数か月前に、あるプロジェクトで当初案ではうまくいかず、方向性を変える必要があるというタイミングがありました。そこで、せっかくだからとクリティカルシンキングのプロセスを応用してみました。方向性を変えるときに普段よく利用する方法が、目的やゴールを設定した上で解決策についてブレストすることです。今回はビジョンについて突き詰めて考えることで思考の枠組みを外した上で、ビジョンを達成し、課題を解決するための方法についてブレストをしてみました。その結果、まったく異なる分野で活用されていたビジネスモデルが適用できるのではということに気づくことができたのです。

では、意識的に思考の枠組みを外すことが、創造的な仕事をすることに役立つという考え方は、一般化できるのか?今回のリレートークをきっかけに、創造性に関する研究について簡単に調べてみました。
例えば、ハーバード・ビジネススクールの教授である、テレサ・アマバイルは、「創造性の構成モデル」という理論を提唱しています。

アマバイルによると、創造性は4つの異なる要素の影響を受けます。その要素は「分野に関連するスキル」、「創造性に関連する思考プロセス」、「タスク・モチベーション」、「社会的環境」です。創造性的思考プロセスとある程度の専門知識を持った人が、創造性を奨励する環境でやる気になったときに、創造性が発揮しやすくなるということです。先ほど新しいビジネスモデルが活用できることに気づいたと紹介したチームでも、確かにこの4つがすべて揃っていましたし、どれが欠けても創造的な仕事はしづらくなるだろうなと感じる納得感のある要素です。

この4つの要素の中で、「思考の枠を意識的に外すこと」と関連して注目されるのが、「創造性に関連する思考プロセス」です。創造的思考プロセスとはどんなものでしょうか。
石川等は「創造性研究の歴史と諸発送法(I)」の中で創造的思考に関して以下のように述べています。「ある事実の発見ということは認知あるいはものの関係を確認することだろう。中略・・。問題に対する見方を変え問題の意味(本質)を理解する過程を、ゲシュタルト心理学のウェルトハイマー(1880-1943)は「中心転換」と呼んだ。これは実際には、経験で得た既知の手がかりや方法を、多少とも変更して新しい適用を行うことである。これがウェルトハイマーの言う「生産的思考」であり、言い換えれば創造的思考ということができる。」この話は、まさにクリティカルシンキングが意図している「思考の枠組みを外すこと」が「創造的思考」につながるということを示しているのではないかと思います。

このように考えてみると、やはりクリティカルシンキングは、私が無意識のうちに探していたパズルのピースの一つだったのかなと思います。まだまだクリティカルシンキングの使い手として未熟なので、もっとしっかりと理解して使いこなせるようになりたいです。

参考文献:
[1]  石川 昭、佐々木 勝浩、広内哲夫著、創造性研究の歴史と諸発送法(I), オペレーションズ・リサーチ 286(40), 1981年5月号
http://www.orsj.or.jp/~archive/pdf/bul/Vol.26_05_282.pdf

[2]  矢野 正晴、柴山 盛生、孫 媛、西澤 正己、福田 光宏著, 創造性の概念と理論, NII Technical Report NII-2002-001J, Jun 2002
https://www.nii.ac.jp/TechReports/public_html/02-001J.pdf

[3]  ナンシー・C.アンドリアセン(著), 長野 敬(翻訳), 太田 英彦(翻訳), 天才の脳科学ー創造性はいかに創られるか

[4]  デビッド・バーカス(著), プレシ南日子、高崎 拓哉(訳), どうしてあの人はクリエイティブなのか?