変化を重ね、人生を編む
CHANGE IN LIFE, WEAVE A CAREER
内藤 博之(ナイトウ ヒロユキ)
久野塾ダイアログ塾1期生・マーケティング実践会主幹
株式会社パスウィーヴ 代表取締役
受け取ったバトンに書かれていたのは「CHANGE」という文字。その語源を辿ると、真の意味は「ある髄を中心に、新しい層を重ねながら変化する」ということだという。それを 「CHANGE IN LIFE / 人生における変化」と捉えると、「自分の中にある心髄を中心に、新しい経験・挑戦を重ね変化する」ということであり、とても示唆に富む。
そこで、個を磨く久野塾だからこそ、自分自身の 変化の変遷を辿り、これから目指す変化・未来について考えたい。今まで重ねてきた層を、《人生の章》と捉えることから始めた。
1.転勤の多い家庭で育つ《望まないリセット人生章》
遊び、勉強、部活、恋愛、全て良いところで、否応なく転勤。SNSのない転勤は絶望的。転勤の度に出逢う、新たな環境と全く異なる人たち。その環境を楽しくするのは、異なる考え方や意見をぶつけあい、新しい遊びやプロジェクトをつくることだと感じ他のか、友人と新たなことをつくって遊ぶ日常を経て、高校に。
2.高校留学に踏みきる《選択したリセット人生章》
ある日、海外へのホームステイツアーの告知を受ける。その初海外 が、人生に衝撃を与えた。世界の広さを知り、想像を超える異なる人々と出逢った。英語が話せれば、世界が広がる、そう感じて留学を決意。
いざ行くと、実際は楽しく甘いものではなく、全く英語が通じず、意思疎通が取れない困難と孤独の日々。そんな自分のことで精一杯だった留学を終える日がやってきた。別れを告げた時、「HIROと出逢わなければ、自分の人生はつまらなかった」 と友人から一言 。その意外な一言がとても印象深く、心動く体験に。「人の転機に役立つ喜び」を感じる。
3.浪人時代にボランティアという世界に出逢う《レールを外れた人生章》
帰国すると、大学受験の真っ最中。周囲が走るレールを外れた自分は、自分ならではの進路を描かなくては先がない。取り急ぎ受ける受験も、心が動かず、親の協力を得て浪人を決意。言わば、フリーターとして勉強する中、 前の章にある言葉をくれた友人が、日本への留学を決めた。彼のためにできることがないかと、留学斡旋NPO にかけ合うと、ボランティアに誘われた。その人生初のボランティアで衝撃を受けた。肩書きではなく、自分自身の持つ力や積み重ねた経験で、人の役にたてることを体感したのである 。さらに、誰かのために価値を届ける実践であるボランティアは、本業では得られない大きな成長機会になる、そして何より楽しいと、新たな生き方を知ることに。
4.課外活動として非営利経営/活動を開始《本業での成長を加速させるパラレルキャリア章》
大学に入学し、領域を超え、多様な学問に触れる中、 新しい価値を作って、人に届ける力と組織作りに興味が湧き、マーケティングと経営のゼミに。一方で、それは目的を達成する力(HOW)に過ぎず、 自分の心が動くこと(WHAT)ではないため、人の転機や成長の力になることを課外活動として両立。 国内外の高校留学支援、フィリピン孤児の成長・進学支援、自然と遊びから学ぶ野外教育支援など、社会や学外と交わり、とことん打ち込んだ。
5.多国籍企業・ユニリーバに入社する《未知の挑戦と成長へ、マーケター修行章》
就職活動を迎えた時、人の転機や成長に関わる活動が楽しく、それを仕事にしたかった。でも、自分の中で足りないものがあった。それは、ビジネスとして新たな価値を生み、世界中の人たちと共に、沢山の人達に価値を届ける自信と感覚がなかったことである。そこで、ブランドマーケティング・マネジメント・リーダーシップを磨くグローバル環境として、ユニリーバに入社。FMCGと呼ばれる市場で、ものすごいスピードで、「挑戦と失敗、のち時折成功」を繰り返し、修行を積む。同時に、その本業は、人の転機や成長に関わることではないため、社内外の課外活動で満たすことに。入社2年目から、後輩に向けた人材育成研修や、母校の大学生と会社をつなぐ支援プロジェクトなどを企画。そして マネージャーになるまで時間がかかるため、経営の経験を早く積みたいと、社外で非営利団体を経営し、鍛えた。
6.グローバルマーケティングチームへ異動《世界中の人に価値を届ける挑戦章》
入社時から、世界中に一つのブランドを届けるグローバルマーケティングに挑戦したかった。しかし当時、そのキャリアパス(過去の事例)は存在せず、目指す未来が開けないことに足踏み。諦めきれず、自分の目的・経験・成果などが世界のリーダーに伝わればチャンスは創れるかもしれないと考え、見知らぬ人にも伝わるよう、自分をブランドに例えた映像や資料を作り、スペイン人上司に希望とともに共有。その 上司は明るく、応援してくれた。即日、その資料を全世界に転送。すると、あるグローバルチームのトップから連絡があり、突然面談に。その準備のできない面談で、話の中心になったのは、仕事の話ではなく、人生の目的や心の本音が表れる 課外活動の話であった。振り返るとこの頃から、徐々に自分の心髄が言葉になってきていた。「人が目指す多様な未来・自己実現の新たな力になること」である。その心髄は、生まれた時から感じていたものではなく、様々な経験を重ね、 変化する中で強く感じるようになったと気づく。そして、その心髄が生きたコンパスのように未来へ自分を動かした。
7. ピープルブランドマーケターとして独立・創業・起業《心漲る新価値創造章 》
ユニリーバで培った「多様な人の心の本音を理解し、新たな価値を創り、市場を開拓するマーケティング」は、人の転機や成長、自己実現ために応用できるのではと感じるようになった。むしろ、心が強引にものづくりだけでなく、人づくりに活かせないかを考えていたのだろう。インドやシンガポール赴任で出会う様々な学生のキャリア相談を受けると、共通する声が聞こえてきた。「自分のやりたいことは、自分ではなく、進んだ大学が決めるということ」。その現実を目の当たりにし、マーケティングをキャリアに応用し、多くの人の力になりたいと独立。(心から好きでビジョンに共鳴していたユニリーバの成長にはコミットし続けたいと、今は社外パートナーに)挑戦をするものの、子どもが産まれたと同時で、家族を養うことができるかを挑戦すべきだと、 フリーランスとして創業。その中で、心髄と実践を行ったり来たりし、自身の志と顧客が感じる価値の交わりを追求し、心漲る未来像にたどり着く。そこで起業を決意し、目指す未来への、新たな道を共に紡ぐ《パスウィーヴ》を設立。その挑戦は、母校の研究テーマとして採用され、多くの方々に支えていただきながら挑戦中である。
以上のように振り返ると、変化を通じて、人生を編み物のように紡いでいることに気づく。 その糸は、多様な色の経験や挑戦である。そのように「人生を編む」ということは、 久野塾で磨き続ける自分自身の挑戦 である。同時に、人生を編み物に例えると、人の数だけ世界に溢れている魅力であり、世界がより良くなる力と可能性である。
「人が目指す多様な未来・自己実現の新たな力になる」
その心髄から、人に喜びを届ける花が咲くよう、人生を編む挑戦を続けたい。久野塾はその実践力を磨く場であり、知行合一が試される場 でもある。次のリレートークは、多様な人生を生まれた国とは異なる地で紡ぐ塾生に渡したい。